「楽な家」

横浜で1996年に加藤哲也建築設計事務所を開設、木造住宅の設計監理を中心に活動しています。

100年ほど前、世界の人口は15億人くらいでした。その頃の家は自然素材でつくられ、柱や梁は人の手によって組まれていました。世界の人口が70億人を超える今、大量生産と消費の社会の中で、家の材料には工場製品が多く使われ、柱や梁は機械によって刻まれるようになり、現場でカンナをかけ、昼休みにノミを研ぐような手間暇かけた光景を見ることは少なくなりました。少なくはなりましたが、できるだけそういう人の手技が残る現場に関わっていきたいと思います。

以前、化学物質過敏症の方の家の設計監理を行いました。限りあるコストのなかで、どうしても使いたい壁の材料がありました。職人さんに相談すると予算が合いません。そこで工費節約のため「私がコテを使うとこんなムラがでるけどよろしいか?」と見本をみせて了解を得、施工したことがあります。段取りさえできればコテをはじめて使う方でもひと部屋くらいならば塗ることができると思います。必要な段取りのサポートは行います。実際に塗られた施主さんもいらっしゃいます。自分で塗った壁のある家で暮らすのもなかなかいいもんだと思います。漆喰ベースのこの壁材で塗った部屋は空気感がちがいます。なにより家の一部を自らつくったという経験(自信)はその後の生活のなかで、思いついた楽しみを気軽に試せるようになるでしょう。

より丈夫に、より安全で、快適な家をつくるための方法として住宅性能表示という制度があります。この制度の指標にしたがって設計をしていけば、だれもが一定の水準の家をつくることはできます。設計を専業とする設計事務所は、この指標に加えてさらに何をしたらもっと豊かな生活ができるのかを考えて、設計図を描き、模型をつくり、現場の監理を行っています。

人口が少なかった頃は富=森(農林漁)でした。人口が多くなり、都市化が進むことで富=貨幣となって、富は実態のあるものから実態のないものへと変わりました。このような環境になったことで、これまでとは質の違うストレスを私たちは蓄積しているのではないかと感じています。朝の7時に家を出、夜の7時に家に帰るとすれば1日の半分は家にいることになります。それならば家はそのようなものから解放される場所でありたい。昔の言葉に「衣食足りれば楽(らく)になる」というのがありますが、これからの生活は、この楽に対しての考え方を新たにしていくことが必要だと考えています。暑さ寒さに対して身体への負荷を小さくするような楽、心地よい自分だけの居場所を見つけたときの楽しさ、ひとりひとりの、家族ごとの「楽な家」をみつけて、それを図面にしていくことが私の仕事です。

メモ
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